走り続ける男、新田 明臣



「ありがとうございました、勝ちました!」

携帯の向こうの声はいつになく弾んでいた。

声の主は2004.7.10、久しぶりの国内復帰戦となったIKUSAでの試合を見事KOにて飾った新田 明臣選手であった。

まだ30歳の若さにして、新感覚の格闘技ジム、バンゲリングベイの会長をつとめ、家庭では二児の父として、リング場では日本屈指のトップファイターとして、全力疾走するこの男にはなんともいえない魅力がある。

彼との出会いは、神楽坂の飲み屋。

格闘クリニックが全面的にお世話になっている平 直行氏からの紹介で、少人数ながら盛り上がった夜だった。

みんなで酒を飲みながら話す内容はやっぱり格闘技。

「僕、平さんの試合を見て、プロになろうって決めたんですよ。リングでみんなを楽しませたいって思ったんです。」

キック世界チャンピオンという肩書きをもちながら、いつも無邪気な「強くなりたい少年」の気持ちを忘れない彼の言葉が新鮮に聞こえた。

「新田さんこれから試合はどうされるのですか?」

何気なく聞いた私の問いに、ビールをとめて少し深く考えながら、

「僕のキック生命ってもうそんなに長いものじゃないって感じてるんです。だからこそ最後は大きな舞台ですごい試合がしたいんですよね。」

なぜか知らないが、彼と話していると不思議と「何か自分にできることはないか?」という気になってくる。

「もし医師としてできることがあれば何でもおっしゃってください!」そういってその日は地下鉄の入り口近くで別れた。

彼は現役、それも多くのファンや関係者がその動向に注目する第一線の選手である。

彼がどんなリハビリやトレーニングを行ったかについてはまだ公表する時期ではない。

ただ彼の自分の身体に対する探究心、強くなるための意欲、そして怪我を克服する努力は今まで私が出会った選手の中でも群を抜いていた。

こっちもプロとして120パーセントの努力をしなければ。

彼とメディカルトレーニングを行うたび身が引き締まる思いがした。

「僕自身がひどい怪我をたくさんしてきたから、生徒にはあんまり辛い思いさせたくないんですよね。」

格闘技の世界には、骨折なんて怪我のうちに入らないという世代の先生も少なくない。

彼は自分たちの世代で何とかしなきゃいけない、と考えている。バンゲリングベイの選手たちは良い先生を持ってうらやましいな、とさえ感じた。

ベビーカーを押しながらロードワークを行い、その後試合用の練習に赴く。夕方には子供の面倒を見ながらジムで指導し、夜は再び家庭人に戻る。

キック指導者、ジム会長、現役選手、患者さん、強くなりたい少年、父親、夫。いろいろな顔を見せながら新田選手は過密スケジュールをぬって走り続ける。

新田 明臣というキックボクサーは強くてかっこいい格闘家である。

しかし、新田 明臣という男はそれ以上に魅力にあふれる男である。

新田 明臣選手の今後に是非ご注目いただきたいと思う。



新田 明臣の映像を見る



(写真と文:格闘クリニック Dr.F)