総合格闘家  平 直行
EVOLUTION&REVOLUTION

                     

〜本日はよろしくお願いします。
平)こちらこそよろしくお願いいたします。
〜平選手と言えば、一つのジャンルにと止まらずいろんな格闘技にチャレンジされて成功されている選手というイメージがあるのですがいままでどのような格闘技をされてきたんですか?
平)もう忘れてしまいましたね〜(笑)。最初極真カラテを仙台で、14歳の時に始めました。それで、15歳の時にボクシングを。うちの親戚がボクシングをやってまして、学生の全日本チャンピオンだったんですね。それでボクシングもやりつつ、カラテが大道塾になってましたけど。
 それから正道会館で黒帯をいただいて。あとはSHOOTINGとSHOOT BOXING、そして柔術を。ほかにもこまごまやっていまして、人に言えるぐらいやっているのはレスリングとサンボぐらいですかね〜。

〜平さんがそのようにいろいろチャレンジされるのはどうしてなんですか?
平)いや〜何故なんでしょうね?僕、飽きちゃうんですよね(笑)。不思議なんですけど、僕がプロのキャリアを始める3ヶ月前くらいに格闘技通信が創刊されたんですよ。その創刊号に僕、これからデビューする新人として載ってるんですよね!で、ずぅーっとそこから流行ってきたもの、全部やっているんですよね。たまたまなんですけどね。
〜そのなかで相手の土俵に上がって、相手のルールで戦うところが平選手らしいと思うのですが。
平)相手の土俵で勝ったほうがおいしいじゃないですか!それで勝ったらかっこいいですよ。負ける、っていう意識が全くなかったから負けてんですけど(笑)勝つとしか思っていないんで。今ほど団体間の交流とかない時代ですから、自分一人で団体に「すいません試合出たいんですけど、」って電話するわけですよ。そうすると、相手も自分のこと知らないから、「大丈夫?なんか格闘技の経験あんの?」とか聞かれるわけです。「シュートボクシングを少々、リングにあがってます」なんていうと急に態度が変わったりするんですね(笑)。しかもそのときバブル来る前ででお金がなくて、公衆電話からかけてて「後で連絡します」、「いや、うち電話ないんですけど」とかこっちも急に態度がちいさくなったりみたいな、そんな時代でしたね。
〜柳沢選手との試合が印象深いのですが。
平)正道全日本のときですね。バックドロップくらったりとかね。愛があるわけですよ!自分だけいいとことらないという(笑)この試合でグラップラーバキが出来たんですよ。なんかめちゃめちゃなキャラがあればいいんじゃないかみたいなところで。
 試合対策としてスパーリングしようとしても周りは違うルールで練習しているからできないんですよね、僕一人。しょうがないから、ミットだけ蹴って。で今だからいえるんですけど、大道塾の東先生のところにいって、SHOOT BOXINGでデビューしたのも挨拶してないくせに「すいません、今度こういうことで正道の大会に出るんですけど練習しにいきたいんですけど」とか言いに行って。さすが、東先生「いいぞがんばれ」ってことになって。「でもお前正道出るのはいいんだけど、何でうちに出ないんだ?」何ていわれたりして(笑)。
 そんなわけで僕にとっての格闘技のベースってないんですよね。誰か特定の先生にずーと習ったわけでもないしですしね。ある意味最初から変な癖ついちゃってまして自分の形できちゃっているから。一番最初に覚えた技がバックキックなんですよ。ベニーユキーデとかみて、本とか読んで。やってみたら一発で出来たんで!当たりませんでしたけどね、学校でやったら。その場では出来たんですけど。

〜格闘技をやっていかれる上で、怪我やコンディション不良に悩まれたことはございますか?
平)ええ、大体怪我は一通りやってますね。首以外はほとんど、っていうか首も前から悪いんですけどね。左膝は関節鏡の手術を二度やってますし、右手も中手骨折ってるし、靭帯切ってるしで。突き指とかはしてない指はないですね。腰もぎっくり腰をやってるし。
〜その大変な中で、試合が組まれたりしていて状態が悪いまま試合に出たなんてご経験はございますか?
平)僕が正道会館の試合に出た時には膝を怪我してたんです。出稽古先で、膝蹴りを蹴った際、相手の肘がまともに膝に当たりまして、靭帯が伸びちゃったんですね。これが試合3週間前でして、お医者さんには3ヶ月かかるよと言われたんです。実際に歩けないんですよ。お医者さんには辞めるように言われるし、会長には男ならやれよ、とか言われて、押忍とかいいながらもレギュラーの練習なんて出来ないわけですよ。歩けなくて立つのがやっとなんですから。そこで考えたのは上半身だけで息を止めて失神する直前まで連打するわけです。これをずっとつづけて、試合前に何とか歩けるようになって試合に出たんです。会長と大阪入りして調整する時に大丈夫だ、絶対試合までに治ると今考えたらあの状態で治るわけなんて絶対にないんですけど階段とかやっと昇りながらも、リングで飛び膝とかやってましたね。で終わるとやっぱり歩けないんですね。肋骨も折ったことが分かって、動けなかったんですけどそれでもメイン張っていたんで、試合は出てましたね。
〜今になって後遺症といいますか、影響はございますか?
平)しゃがんだりとか、階段下りたりとか普通のことが出来ないことがありますね。子供とか抱っこすると腰痛いし。でも話し効くと同じ年くらいの普通の何もやっていない人でもあちこち痛かったりするらしいんで、どうなんですかね?怪我もしてるんだけど鍛えてる部分もあるんでどうにかなってんですかね。小さい怪我をたくさんしたからここまでもったていうのはあるかもしれませんね。休んでいる間に次の選手が出て、、、。あのままずっとSHOOT BOXINGに出続けていたらいまごろただのおじさんになって仕事してるだけなんじゃないかって気はしますね。やってないですよね絶対、22から今までは。結局柔術が世に出る前から総合やってた人でその頃メインでやっていてチェンジして柔術始めた人で成功した人いなかったですよね。そう意味ではラッキーなんですよね。適当にやってるというのが。怪我の分本当にできないっていうのもあって余力を残しているんですね。
〜まだもちろん現役でいらっしゃるんですが、平選手にとって怪我やコンディション不良と言うのはどういう位置づけになりますか?
平)やっぱりなかったほうが良かったんでしょうけどね。でも起きたもんはしょうがないんで。起きないようにはするんですけどおきたものに対してはどうせならいいほうに変えていったほうがいいかなみたいな。もちろん怪我はしないにこしたことはないんですが。昔は怪我しても関係なしに無理してでもやりこむこともあったんですが、30前ぐらいから出来ないですよね。走れば膝に水たまるし。息あげたりももうスパーリングでやるしかないんですよね。だからやたらと追い込むのがいいんではないですよね。ここまでならOKと分かってて追い込むのと訳わかんなくて追い込んでつぶれるのって全く違うんですよね。今はそういうのが分かってきましたし、トレーナもいないですから全部自分で決めてやっていますね。一時フィジカルトレーナーについてやってもらったことあるんですが結局合わないんですよね。僕の体のことは誰も理解できないんで誰も。私の動きをできるのかね君たち、みたいになってしまうんで。
 グレーシーファミリーと練習していた時に不思議な経験があって、そのとき肘にぐりぐりと押すと痛いできものがあって、大きく腫れて血を抜くぐらいのものだったんですよ。それでむこうに練習に行って、グレーシーダイエットで治してあげようってことでずっと朝起きてから夜寝るまで行動を同じにして食事とか同じにしてすっかり治ったんですよ。まあ後で聞いたらカリフォルニアって気候がいいから腰痛とか治ることがあるらしいですけどもね。怪我したらこれを食べろとかいうのがあるんですよ。だから食べ物をおいしいとかでたべるんではなくて、力を与えてくれるもんだ、自然の力をもらうんだっていう捉え方なんですよね。食べ物もクリームチーズはナチュラルでいいけどもプロセスチーズは固めてあるからだめだっていってました。グレーシーって元々科学者の家系でそれに栄養学やら易学やらやってるみたいですよ。ブラジルの生まれたところにいってももう自然公園みたいなところなんですね。そこでみんなが暮らすのがたのしいんだ、金なんかじゃないんだっていってましたね。

〜グレイシーにはトレーナーなんかはいるんですか?それとも一家でお互いにみてるんですか?
平)グレイシーはチームなんですよね。ひとつの技が出たらそれを解明して次の技を作ってみたいなことを毎週毎週会議を開いてどんどんどんどんやってるんですね。ブラジルではそれやんないと他のチームに太刀打ちできないらしいですね。サッカーなんかも次々に新しいフォーメーションをつくっていきますね。向こうのやつって日本的な練習と全く違って科学的というか、血液検査もしょっちゅうやって体の状態なんかもチェックしてるみたいですね。ちょっと練習のしすぎだとか。そういう面はかなわないですね。技術だけではないんですね彼らは。ぼくも向こうにいるときに体の感じがいいんですよ。先生にはこの感覚を日本の食べ物で見つけなさい、っていわれました。
〜今、選手だけでなく指導者としての立場もあると思いますが気をつけていらっしゃることはございますか?
平)いま言っているのは、生活の中に組み入れなさい、ということですね。自分の仕事があり学校があるわけだからどれだけやればどのくらい疲れるとか、そういうことをまずわかる事が大事だよと。週三回なら週三回で効率よくやって疲れが残らないのであればそのとき初めて次の段階を考えたらいいよ、とかそういう部分を言ってますね。いまいる人たちにはこの段階のことを教えておいて、そうすると次に入ってきた生徒はその空気の中でがんばるから自然にそういう考えになるし一から教えなくてもいいし。新しい道場を作ったときはすごく初歩的なところから始めるんですよ。考え方とか柔術の歴史とかその辺から始めるんです。それでみんながなれてスパーリングとかやるようになった時にはそういうことはベースにいる人たちがそういうことが分かっているから次に入った人たちはそこからじゃあそれをつかって社会でどう生活するかとかそういうところにいけるんですよね。まあ話したからってできるわけではないですけどね。
 あと怪我に関しては、怪我だけはしないでねという感じで話すんですけど、怪我して休んだって強くなんないからねってことを指導の際言うようにしています。ぼくもサンボのビクトル古賀先生におそわったんですけど、「怪我することほどよわくなることはないからねー」「あんまりがんばってね、怪我して2週間休んだら抜かれるよー」って。組み技でもたたかなかったら(タップしなかったら)怪我するからやばいと思ったら早めにたたいちゃえばいいんですよ。そうすれば怪我しないんで。そうしてたたいてからすぐどうしてとられたかを考えて練習すればいいんであって怪我して休んでどうしてとられたかも忘れて又同じ技食らってもしょうがないですからね。うちはまとまってウォーミングアップをしないんですよ。そうするとみんな怪我が怖いから各自でしっかりやるようになるし。で、クールダウンだけは時間とってやるんですよ、翌日の事を考えて。

〜平さんは練習での怪我というのはどういうときに起こるとお考えですか?
平)そうですね、だいたい楽しくない時に起こる気がしますよね。あとモチベーションが落ちていたり刺激がおんなじだったら怪我するような気がします。後緊張してない時にも起きますね。やっぱり刺激かな。練習の内容や順番を変えたりすることで刺激をあたえるようにしています。リフレッシュするというかね。今までの道場って、同じことをこなせるのがいいってところがあったと思うんですけどなんか違うかなと。毎日同じことをこなすのは日常でみんなやってんだから道場くらいはいいよと。だらだらと毎日黙々とやってやった気になってる人もそれはそれでいいんですけど、そういうのが好きな人はそういう道場に行ってもらえばいいし。僕はなるべく刺激を与えてあげたいしいい刺激になれば日常にもそれが返るかなと。怪我もしないだろうし。変化に対応できない言い訳として同じことやってるひとって多くないですか。それはなんか違うなあ、と思うんですよね。
 あと訳も分からず練習なのにがんがんに来る人。こういう人を抑える人がいるのはいい道場ですよね。ぼくいつもその役だったんですよ!若い頃は乱暴ものつぶしのいい生徒でしたよ。いまはそういう時代じゃなくなったし、そういう役のやつも減ってきましたけどね。ぼくらも昔は腕が折れた時も練習出てきなさい、という感じでしたね。それで自信もつくんですけどね。ここまでやってんだ、みたいな。でもそれはプロに向けてのことであって、報酬があるからそれでもやれるんであって普通の社会人が時間を犠牲にして、社会人的適応を捨ててまでやることかな、ということですよね。
 だからうちでは自由にさせていますけどね。自分のスタイルを創らせてあげたいっていうか。こういう風にした方がいいよ〜っていってそれが合えば取り入れたらいいし。ぼくが誰かのスタイルを創るのを本人が望むかっていうと望まないですよ。自分で考えたことをやらしてあげたいし、そのなかでプロとして試合でる子に対しては息を上げてあげたりとか。俺だったらこういう風にするけど、みたいにいいますね。だから一対一で育てた、付きっ切りで育てたみたいな選手はうちからは出ないですよね。ぼくも一対一で育ててもらってたらもっと強かっただろうな〜でももっと早く潰れてただろうな〜と思いますよ。ぼくと同年代の仲間なんてみんなとっくにやめていますね。キックの試合なんかいってもぼくの後にはいってきた後輩だった人がもうコーチとしてセコンドにいたりとか。そんなもんかな〜なんて。でも普通やってないですよねこの年まで。

〜怪我をした状態やもっというと後遺障害がある状態での練習方法とか内容というのはご自身で考えてこられたんですか?
平)ぼく不思議なことにいろんな人にいろんなとこで会うんですよ。膝が悪い時にビクトル古賀先生にお会いして教えてもらった治療法で治ったりとか、腰が痛くて動けなかった時に、ヒクソンがヨガやってて、ヨガの本でも読んでみようかなって思ってそのあとヨガの教室に行ったり。アンディーフグがこれまた人と違うことが大好きな性格で、「俺は今もっといいのをやっているインドの歴史もすごいけど俺がやってるのはヒマラヤの何とかってやつだ、とかいうんですよ。
いまでもあるんですよ、それのドイツ語で書いたレシピみたいなのが。「これをやるよ。いいだろ!」ってもらったんですけど。
 だからふしめふしめに体の使い方教えてくれる人に出会うんですよ。だからめぐり合わせですね。いまも台湾の先生に打撃みて頂いてるんですけど。だからちゃんとやってればまたいい人にであうかな〜ぐらいの感じですね。

〜それでは最後になりますが、今後の抱負などお聞かせ願えますか。
平)そうですね、選手の区切りとして、何か試合をやった後、今まで何か好き勝手やってきた分、社会に対して何かお礼がしたいですね。せっかく格闘技やってきたからそれを通して、人様に喜ばれるようなことを何かやっていければと思いますよ。これからもいろいろとチャレンジしていきますのでよろしくお願いいたします。
〜本日は貴重なお話、どうもありがとうございました。

                                              2002.1.18

平 直行選手の総合格闘技ジム、ストライプル