格闘技リハビリテーション   →格闘技リハビリテーションを動画で見る

格闘クリニックでは、怪我をした格闘家の現役復帰を目的とした活動の一環として格闘技リハビリテーションに積極的に取り組んでいます。

「一般人とは生活も、基礎体力も、ゴールも違う格闘家の医療・リハビリ・トレーニングとはいかにあるべきか?」

唯一の答えのないテーマに現役格闘家・格闘技専門ドクター・理学療法士が一体となって試行錯誤を繰り返し、そのノウハウを蓄積して「復活への道」を探っています。ここでは格闘技リハビリテーションの実際の様子をご紹介いたします。




肩を痛めた総合系空手選手。

診察・検査を経て全体的な治療方針が決定。筋力・可動域などの理学療法的メディカルチェックの際、「格闘技の動き」で何が問題なのか、また何は大丈夫なのかを探っていく。

通常のリハビリでは、筋力の評価が単関節単位で行われることが多いが格闘家の場合、最終ゴールが試合の場であるため、より実戦に即した形の医学的評価も同時に行っている。

















損傷部そのものにフォーカスを当てたの訓練の様子。

PNF原理を利用した負荷や、感覚入力を意識したプログラムが多い。

怪我の再発を最大限に予防する意味でも損傷部位の修復・機能回復にプラスして深部感覚等の固有神経終末の回復も促すのが目的である。




















損傷の程度やタイプによっては、いわゆる「元通り」の動きのレベルを少し超えた身体の使い方(神経の再教育に近い)を習得しなければならないこともある。損傷が起きるということは少なからず解剖学的な変化が身体に起きるのだが、脳が身体の変化についていかないことがよくある。
身体は変化したのに、身体を動かす脳が以前のままなのだ。格闘技選手が怪我をし痛みが和らいだ時点で「もう治った」と安心し、サンドバッグやスパーなどでいきなり受傷前のフォーム・スピード・パワーで技を出し再発してしまうケースは後を立たない。そればかりか、1度怪我をした部位の「2回目」は選手生命にかかわる場合が少なくない。格闘技リハでは「怪我を治す」レベルを超え、「二度と再発しない」機能回復を目標にしている。
















怪我に立ち向かっている格闘家全員に共通する想い、それは「一日も早く思いっきり練習したい」この一言に集約されるといってもいいだろう。「ライバル達は今もガンガン練習している、俺も頑張らなければ」という気持ちは非常に大切なのだが、下手するとこれが「あせり」につながってしまうことも少なくないのが現実。無理をして怪我が慢性化してしまう怖れもある。
そこで格闘技リハビリテーションでは医学的な評価に基づいた「今やっていい練習」「まだやらない方がいい練習」を明確化し、「怪我している今だからこそ伸ばせるテーマ」を選手と一緒に探求している。怪我が治ったころには全体的にレベルアップしている状態をめざす、というわけだ。格闘技リハビリテーションが他の一般のリハビリやスポーツリハビリテーションと大きく異なる点は「この状態でさらに強くなるためにどんなメニューをクリエイトするか」という視点の部分にあると思う。














格闘技リハビリテーションが進んでいくと、損傷部の機能回復に伴って「できること」が増えていく。最初は負荷をかけずに動かすだけでも痛みを伴っていたが、時間の経過と共に負荷に耐えられるようになり、ついにはボディーコントロールが自在に行えるレベルまで達した。
旧来の医学では「骨折がくっついたら」、「靭帯が癒合したら」、「痛みがなくなったら」、それを「治癒した」と表現していたが、格闘家にとってめざすべき地点は機能が回復し、再発が予防され、結果として強くなれた、というものであると考える。

格闘技リハビリテーションおよびそれに続く格闘技メディカルトレーニングは治療と練習・試合復帰の間の架け橋を目指している。

















キックボクシングのリングを主戦場としている、肩関節脱臼手術後の空手選手の格闘技リハビリテーション。
肩のインナーマッスル強化といえば、チューブトレーニングによる方法が広く知られているが、ここではメディシンボールを利用しインナーマッスル筋力強化も様々なパターを行っている。
習慣性肩関節脱臼は格闘技選手の選手生命を左右しかねない障害の一つだが、手術を選択した場合でも一定の固定期間のため、筋力低下および可動域の低下が著しい。

パンチや首相撲、ブロックといったいきなりの格闘技動作は術後にはリスクが大きすぎるため、徐々に安全な運動からスタートしていく。

















訓練により、筋力が強化され、可動域も改善していく。
それをいかにに格闘技の動きに反映させるか、が最大のテーマになる。
この写真も外から見ると単にダンベルを持ってパンチを打っているようにしか見えないが、単関節への負荷を軽減しながら再脱臼のリスクを減らす、大切な訓練のひとつである。

選手には、解剖学と格闘技の実際の動作を説明しながら、訓練内容と格闘技での動作と再発予防が一体であることを頭と身体で理解してもらうように心がけている。


















右足底筋を痛めたテコンドー選手。

テーピングで関節の可動域を制限し、損傷部にかかる負荷を軽減させ荷重のかかるポイントを少しずらす。

わずかな変化だが、蹴りの動作の改善がみられた。

テコンドーでは、蹴りの動作中、高度のバランス感覚が要求されるが、靭帯を損傷すると固有感覚受容器というセンサーが破壊され、感覚神経に伝達が著しく鈍ってしまう。

この写真は蹴りの動作の確認でもあると同時に、感覚系回復のリハビリでもある。















尺骨骨折後のキック選手のレントゲン。
普段から激しい運動をしているだけあって、骨の癒合が一般人より若干早く仮骨の形成もしっかりしている。

格闘技リハビリテーションは、検査や診察、評価を通じて医学的な根拠に基づいた運動療法を行っている。

その点が普通のトレーニングとの最大の違いであろう。





















前腕の筋力トレーニング。

2キロ程度の軽い鉄アレーでも、
筋肉の走行を意識した運動でかなりの刺激になる。

途中、アイソメトリックを混ぜることで筋が意識しやすくなる。



















損傷部を使用したコンタクトには細心の注意を払っている。

病院で怪我が治ったと判断し、また自分で怪我が治ったと自己判断してしまい、いきなりヘビーバッグやスパーに挑戦、せっかく治りかけた損傷部を再度壊してしまう、といった悪循環が後を絶たない。

格闘技リハビリテーションでは、コンタクトにおいても、負荷ゼロ、軽い負荷、中程度の負荷、と徐々に負荷を上げている。また選手とよく話し合い、安全な道場・ジム復帰へのプログラミングを行っている。















頚部に障害があるプロ柔術選手の格闘技リハビリテーション。
スタッフに向かってタックルで入っていくが、その際の頚部への外力の逃がし方に重点を置いて試行錯誤を繰り返す。

一般的なリハビリは、怪我や障害部が治癒すれば再受傷に気をつければよいが、格闘技の場合はせっかく治った怪我や障害部位をねらわれたり、かばうことが難しかったりと、一般にリハビリよりもさらにリスクが大きい。

そのため、実際の動きになったときどのように障害部へのリスクを減らすか、という観点から技術を見直さなければならない。















膝内側側副靭帯(MCL)損傷後の総合格闘技選手。

可動域も完全にオーバーし、膝がゆるいため、衝撃を関節で吸収してしまい、体重・パワーの割りに威力となって相手に伝わらなかった。
そこで膝周囲の筋(主に大腿四頭筋およびハムストリングス)を一定の角度にして筋力を発揮するアイソメトリックを中心に筋力を徹底強化。

膝を屈曲位でキープし、骨盤ごと回転するフォームへと変化させた。

その結果、動作中の膝のゆるみは改善され、リスクは少なくなり、キックの威力も大きくなった。














損傷部が回復する間に心肺機能が低下してしまうと、結局完全に治癒してから、またスタミナを作り直さねばならなくなる。
格闘技リハビリテーションでは、リハビリ期間中も極力心肺機能が低下しないように、スタミナ系のトレーニングも安全な範囲で課す場合がある。

写真のキック選手はタイトルマッチ前の怪我であったが、徹底的な心肺機能訓練でスタミナ面で落ちることなく試合を向かえることができた。


















格闘技リハビリテーションのドクター側から見た面白さは、その個別性と創造性にある。

既存の訓練やトレーニングを選手に当てはめていくのではなく、選手の骨格や体型、性格やファイトスタイルにあわせて訓練プログラムを組み立て、「もっと強くなる」ために何をしたらいいかを考えていく。

一つ一つのメニューにアレンジを加えたり、選手が意識できていない場合にやり方を変えたり、医学的に・また格闘技的に説明したり、ギアを使ってみたり。

そのライブ感覚こそが、選手の気づきを生むのだと思う。













格闘技リハビリテーションを動画で見る



格闘技リハビリテーションは格闘クリニックブログでもごらんいただけます。