格闘技リハビリテーション動画1  〜前腕尺骨骨折からの復帰〜

選手:グレイシャア亜紀    担当医:二重作 拓也   協力:OHPリハビリテーション

@タオル・グリップ


女子キック選手、左尺骨骨折後のリハビリテーションです。

固定期間終了後、外力を加えず、自分で動かす訓練(自動運動)からスタートしました。

タオルを拡げ、手のひらをうまく使ってボールのように丸めます。

手を置く場所やタオルの置き方を変化させることによって、前腕部への刺激に変化が生まれ効果的な筋力強化になるだけでなく、脳・神経系のフィードバックを介した巧緻性(器用さ)をも回復させる訓練になります。。

回旋の動き(肘から先が、前腕を軸として内側や外側にひねる運動)は、骨折部への負荷が大きく、再骨折につながりやすいため、初期は極力控えるようにこころがけてください。

運動量の目安は、軽い筋肉痛を感じるくらいで十分です。やりすぎると、しばらく継続が困難となりますので、ご注意ください!



Aタオル・バッティング


タオルを使ったリハビリテーションメニューです。

タオルを野球のバットのように振って軽い負荷を与えます。

これに慣れてきたら、徐々にタオルをバーにぶつけて負荷を段階的に大きくしていきます。

彼女の場合は、打撃選手であるため、

バッティングフォームと右ストレートのフォームを交互にメニューに組んでみました。

下半身や体幹において、

共通のモーションが見られると思います!

怪我をしたときには、他のスポーツからたくさんのヒントが得られるチャンスでもありますね!



B壁を利用したアイソメトリック


壁を利用した、アイソメトリックトレーニングです。

格闘技の場合、【元通り動く】という機能回復はもちろん、

【弱点を狙われても、それに耐えうる強度】

が求められるというのも、特徴といえるでしょう。

そういう意味でも、格闘技においてアイソメトリックトレーニングは必要なトレーニングのひとつだといえるでしょう。

壁ってなかなか使えるトレーニング器具なんです!



C壁を利用したアイソメトリックトレーニング


同じく、壁を利用したアイソメトリックトレーニングです。

前腕や拳の接地面を変えることで、

バリエーション豊富な刺激を加えることが可能になります。

格闘技においては、どの角度から負荷がかかってくるかわかりませんので、

一定の角度だけの負荷では足りないと考えてこのような訓練を実施しております。




Dディフェンスに直結したアイソメトリックトレーニング


選手自身がアイソメトリックで安全に負荷がかけれるようになったので、

今度は徒手による抵抗をスタートしました。

キックボクシングという競技の性格上、

ガードへの外力とその逃がし方は非常に大切なファクターとなっております。

訓練前に、レントゲン写真を撮影し、

骨の癒合を確認してから行いました。

医学的評価あってこそ可能な訓練だと思います。



E実践的な筋力トレーニング


リハビリ中の選手自身の心理的不安のひとつに、

思い切りパンチが打てるようになるのか?

というものがあります。

格闘技リハビリテーションでは、通常のマニュアルによるトレーニングやウェイト、チューブを利用したトレーニングに加えて、

実際の格闘技に即した動きでの筋力トレーニングを積極的に行っています。

この方法ですと、選手も普段の動きの中での回復を実感できますし、

実用的な筋力回復ができるというわけですね!



F骨折後のプッシュアップ


全国どこのジムや道場でも気軽に行われている腕立て伏せ(プッシュアップ)。

とてもポピュラーで、基礎的なトレーニングでありますが、

前腕の骨折後のプッシュアップに開始は格闘技ドクターとしてもっとも気を遣う瞬間のひとつです。

@体重がかかるほどの大きな負荷を数週間経験していない上、

A筋力も低下しており、

Bなお骨の強度も落ちている、

という3重苦の状態ですからバランスを崩して再骨折、というリスクも低くないのです。

この映像も、ふざけたように見えるかもしれませんが、垂直の腕立て→斜めの腕立て、膝での腕立て→普通の腕立て、とあせらず段階的に進化していくのが一番近道だったりします!



Gプライオメトリックス


骨折部の骨癒合も進み、筋力も回復してきたため、

瞬発力を取り戻す訓練も取り入れました。

垂直プッシュアップの状態で、

腕でジャンプするように負荷をかけます。

この方法は、一瞬で大きな負荷をかけられる上、

筋力を短い時間で発揮しなければならないため、

瞬発力を向上させるには効果的な方法です。



Hサーキットトレーニング


格闘家のもうひとつの不安、それは怪我の治療中の体力の低下、特にスタミナ面での低下です。

怪我が治るまでの間、心肺機能系や筋持久系のトレーニングを全くやらないとなると治癒後にまたゼロからスタミナトレーニングやらなければならなくなりますから、どんどん復帰までの期間が長くなってしまいます。

格闘技リハビリテーションでは、損傷部に負荷のかかりにくいメニューを組み合わせ、サーキットトレーニングとして行っています!

怪我をしても、やり方によっては怪我以前よりもスタミナ面を強化することは不可能ではない、と考えています。



I脳・神経系トレーニング


骨折部の固有感覚神経回復と、反応スピードの向上のため、音声入力と同時に身体を動かす脳・神経系トレーニングも実施しました。

カレンダーを利用したものだけでも、20パターン以上あるのですが、動画のものは、

ABC、とそれぞれ蹴り技を決めておき、

A−7、B−21、というように技→カレンダータッチを繰り返すというトレーニングです。

脳と身体に効きますよ!



J怪我をしたときの練習


怪我をしたときの練習には、気を配らねばなりません。

安全を最優先して、

かつ本人に必要なテーマにそって練習をしていく必要があります。

これは、格闘技メディカルトレーニングクラスにおける動画で、前腕を固定しつつ、ハイキックのバランスを高めるトレーニングを行っています。

せっかくだから怪我する前より強くなろう!

そんなノリで練習してました。



K怪我をしたときのスパーリング


スパーリングへの復帰は、限定スパーより段階的に行っていきました。

最初は腕にサポーターをしっかりはめて、

極力転倒しないように配慮しながらのローキックのみのスパーでした。

きちんと相手に意識を合わせることができる選手、

怪我に対し、十分な配慮できる選手にパートナーになってもらうことが一番重要です。