武道と医学 塚本 徳臣
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[健康と強さ]
強くなるためには毎日意識を高く持って、練習を続けなければなりません。
カラテの稽古は、健康であることが前提で出来ていますから、健康な状態をキープすることが大切だと思います。
身体の状態が悪いま稽古すると、質の悪いものになりがちです。体調だけでなく、たとえば誤ったウェイトトレーニングによってアウターマッスルばかりが強化され、身体全体のバランスを失う、プロテインなどのサプリメントの摂りすぎによって内臓を悪くする、といったことも、不健康の上に成り立っているため本当の強さではないような気がします。
自分は60歳を超えてもなお衰えない技を目指しています。そのためにも健康度を上げていくことは強さにつながると考えています。
[コンディション]
風邪を引かない、怪我をしないというのも、試合に向けて必要なことと思います。
試合前に風邪を引いた時点で試合に対する取り組み方が負けているし、試合前に風邪を引いて体調が悪いことを言い訳としてつくってしまうのは良くないと思います。
自分も以前、一日10時間以上の練習を深夜1時頃まで続けていた時期がありました。
その結果体調を崩し入院して治療を受けて試合に臨んだのですが、試合場に上がってもその練習でやってきたことがほとんどでない、というかそれどころではなかったです。健康度を高めることが大切なことがよくわかったできごとでした。体調管理も意識に入れて稽古することを生徒にも指導しています。
怪我をするというのも、意識レベルが低いことにより、惰性の練習をしてしまい起こると思います。私の場合、まず怪我をするような練習をしないこと、柔軟や体操を120%やりきってから激しい練習に移ること、攻撃する場所を良く見ること、第六感まで働かせて練習することなどを心がけています。それでも怪我をしたまま試合に出なければいけないときは、怪我をした状態でも戦える身体、技、戦術を創るチャンスと捉えています。
言い換えれば、自分の身体を通してヒントをもらっているということでしょうか。
自分が手首を骨折したままワールドカップに出場したときには、本当に命をかけて戦えるか、ということをテーマにして臨みました。人生に一度あるかどうかの命をかける、という行為を試合場で試してみよう、と。
試合場はテーマを試し合う場所という意味ですしね。
そうすることで怪我にとらわれないで、試合をすることができました。(結果は優勝。初代ワールドカップチャンピオンに輝いた。)
この怪我より、練習中は意識的に怪我をしないように心がけるようになりました。
[武道と医学]
心技体という言葉があります。
技というのは、稽古を通して自分の身体がどれだけ華麗に無駄なく動かせるか、人の動きを見ただけでまねできるくらいに自分の身体の感覚を高められるか、ということだと思います。
食事や姿勢、生活を通して技を実現できる体を作る。
心は技と体を実行するための気持ち、意識と考えています。
武道を追求していくと、人間の身体、精神の追求に重なりあっていくので、医学的な考え方や知識を持つことは、強さを求める上で必要となってくると思います。
今回、塚本選手にお話を伺って感じたのは、武道家としての意識が高く、新しい知識や練習法の習得、開発に貪欲であるということです。
常に自分に刺激を与えながら強さを追求している、そしてその成果をカラテの試合場という一定の場で実証しようとしている稀有な格闘家であるという印象を受けました。
この日も解剖学書を引っ張り出してきて、「この骨と筋肉を意識して伸ばしてください」「写真をしっかりみて意識し、身体の感覚を自分でつかんで下さい」といった、一種アカデミックな雰囲気の中で稽古指導が行われていました。
技術的なものはもちろんのこと、指導法、道場のあり方まで塚本選手ならではの新しい空気に満ちていました。
(写真:木村氏 インタビュー:Dr.F)